ちんとんが生まれた理由 - ウクレレから着想を得た和楽器の話 | 三絃司きくおか

ちんとんが生まれた理由

三味線の工房が、なぜ三味線ではない楽器をつくったのか。

こんなことをよく聞かれます。今回の記事ではなぜ三味線の工房が三味線ではなく、新しい和楽器を作り始めたのか、そんな話をしていきたいと思います。

三味線の現実

三味線は日本を代表する弦楽器です。歌舞伎、文楽、長唄、民謡、津軽三味線——日本の芸能を支えてきた楽器であり、その音色は多くの人の記憶のどこかに残っているはずです。

ただ、三味線を自分で弾くとなると、話は変わります。

本格的な三味線は安くても5万円、良いものは数十万円します。全長約100cm、それなりの重さがあります。胴に張られた皮は湿度に敏感で、管理を怠ると破れます。撥(ばち)の使い方を覚えるだけでも時間がかかります。音は大きく、集合住宅では近隣に気を使います。

これだけのハードルがあると、ちょっと興味が出てもなかなか手に取ることができません。

そして実際、三味線を手に取る人は年々減っています。和楽器を扱う店は次々に閉じ、三味線を教える教室も減っている。若い世代にとって三味線は「知ってはいるけど触ったことはない楽器」になりつつあります。

ウクレレから得たヒント

そんな中で私たちは、どうすれば三味線をより多くの人に知っていただき、たくさんの人に弾いてもらえるかということを考え続けました。

そんな時にふと思い出したのが、ハワイのウクレレです。

ハワイに旅行すると、お土産にウクレレが欲しくなる。気軽に手に取れて、旅の思い出として持ち帰れる。ウクレレはそうやって世界中に広まった楽器です。

三味線も、そんなふうに手にしてもらえないだろうか。

旅先で出会って、思い出と一緒に持ち帰れるような楽器。日常の中でふと手に取って、和の音色を楽しめるような楽器。三味線そのものの形ではむずかしくても、三味線の技術を使って、もっと自由で身近な楽器がつくれるのではないか。

それがちんとんの出発点でした。

何を変えて、何を残したか

ちんとんを作るうえで一番考えたのは、どこを変えてどこを残すかということでした。

棹の素材は紅木からヒノキに変えました。胴に張る皮はユポ紙に、撥は富士山型のピックに。サイズも三味線の2/3まで小さくしています。

現代の暮らしの中で気軽に手に取れるように、素材もサイズも見直しました。

一方で、弦は三味線と同じ三本。調弦の体系も、左手でツボを押さえて音程を変える奏法も、そのまま残しています。職人が一本ずつ手がけるものづくりも変えていません。

三味線の音楽としての本質にあたる部分は、そのまま受け継いでいます。

素材を変えている以上、三味線とまったく同じ音にはなりません。でも、弦を弾いたときに和の音色が響く感覚、日本の音だと感じるあの感覚は、ちんとんにもちゃんとあります。

ユポ紙との出会い

開発の中で最後まで悩んだのが、胴に張る素材でした。三味線らしい響きをどう再現するか。見た目や形だけでなく、音は職人としてどうしても譲れないところです。

いくつもの素材を試し、何度も音を確かめていく中で出会ったのが、ユポ紙という合成紙でした。

デザイナーから「こんな紙がありますよ」と教えてもらったのがきっかけです。ユポの企画担当の方に直接電話をして、サンプルをいただきました。

軽くて丈夫で、印刷ができるのでデザインを載せられる。湿度も気にしなくていいし、破れる心配もない。そして何より、音響的にもちんとんに合っていました。ちんとんの胴に張る素材として、これ以上のものは見つかっていません。

ユポ紙との出会いがなければ、ちんとんは今の形にはなっていなかったと思います。

三味線の代わりではなく

ちんとんは三味線の代わりにはなりません。三味線には三味線にしかない音と迫力があります。舞台で映える楽器は、やはり三味線です。

ちんとんが目指しているのは、もっと手前の場所です。

三味線に興味を持つきっかけになれたらいい。和の音色が暮らしの中に自然とある状態をつくれたらいい。そして、ちんとんをきっかけに三味線に進む人が出てきたら、それは最高にうれしいことです。

三味線文化を守るために、三味線とは違う楽器をつくる。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、つくり手としては、これが一番誠実な方法だと思っています。

ちんとんはこちらから購入できます。